俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい

人前で泣いたのはいつぶりだろう。ブラックな会社で鍛えられてから、泣くこと自体稀だ。

でも、いくら忍耐強くなったとしてもそれは仕事の面だけで、人間関係においては私の心はこんなに脆かったのだと、初めて気がついた。

下唇を噛み、鼻をすする私。不破さんはテーブルに置いてあった赤ワインのボトルをおもむろに手に取り、ワイングラスに注ぎながら優しい声色で言う。


「都合が悪いとき仕事に逃げるのは、なにもお前だけじゃないぞ」


頬を濡らしたまま目線を上げ、珍しくバツが悪そうに苦笑する彼を見てはっとした。

そういえば、不破さんもご両親のお墓参りに行くのをためらって、毎年仕事を入れていたんだっけ。ちょっぴり似たものを感じる。

彼はボトルを置き、こちらに向かってゆっくり足を進める。


「いいんだよ、たまには逃げたって。自分の気持ちに整理がつかないまま向き合っても、うまくいくとは限らない。でも本当の友達なら、彼女もお前と同じ気持ちなんじゃないか」


落ち着いた声で諭され、心の強張りが少しずつ解れていくのがわかった。

確かに、友情が壊れてしまわないかと不安になっているのは、きっと桃花も同じだ。もしかしたら、彼女は私以上に怯えているかもしれない。