暴れまくっている心臓を持て余し、ぎゅっと目を閉じて固まっていると、しばらくして身体が離された。

真っ赤になっているであろう顔を上げられない私の頭に、ぽんと手が乗せられる。


「ありがと。回復した」


くしゃりと撫でられ、おずおずと目線を上げれば、確かに先ほどより明るくなったように感じる笑顔があった。

突然のハグでめちゃくちゃびっくりしたけど、少しでも気分が落ち着いたなら、まぁいいか。なにがあったのかについては、今は触れないでおこう。

心臓がまだまだ高鳴っているのを感じつつ、手ぐしで髪の毛を整えた。

立ち上がった不破さんはキッチンのほうへ向かい、ネクタイを緩めながらテーブルに並んだ料理を見て声を上げる。


「おー、美味そう」

「お口に合うかわかりませんが、どうぞ」


私も腰を上げてそう言い、時計を見やれば、針は九時五分前を差している。

わざわざ不破さんに送ってもらう必要もなさそうだし、ひとりで帰ろう。このままふたりでいても、ドキドキが治まりそうにないし。


「あの、私これで失礼します。まだ九時ですし、電車で帰れますから。合鍵もお返ししますね」


そそくさとおいとましようと、リビングのテーブルに置いていた合鍵を取り、不破さんに近づく。