「ただいま」


しゃがんで私と視線を合わせている不破さんは、綺麗な笑みを湛えてそう言った。私は軽くパニックに陥り、慌ててソファから背中を離す。


「あっ、お、おかえりなさい……! あれ、私寝てました!?」

「ぐっすりとね」


クスッと笑われ、顔がかあっと熱くなる。

不細工に違いない寝顔をばっちり見られてしまった……。しかも、髪を撫でられたり名前で呼ばれたりする、都合のいい夢まで見ていたみたいだし。

恥ずかしさと決まりの悪さでしおしおと俯く。


「すみません、本当にくつろいでしまって……」

「いいって。アリサの寝顔見たら疲れが吹っ飛んだから」


そんなふうに言ってもらえると救われる気がして、トクンと胸が鳴った。“寝顔が面白くて”とかいう残念な理由じゃないといいけど。

少し目線を上げると、彼はいつになく優しい微笑みを浮かべている。しかし、それはどことなく覇気がないように思えて、漠然とした不安が過ぎる。

不破さんは疲れを見せることすら稀だから、妙に心配になる。今日の用事は厄介なものだったりしたんだろうか。


「まだ、少しだけ浮かない顔をしてますよ。なにかあったのでは?」


真正面から見つめて問いかけると、彼は意表を突かれたように目を丸くする。