単純に“親密な女性はいないよ”という意味だってことくらいわかっている。わかっているけれど、嬉しくなってしまった。

緩みそうになる唇を結び、ゆっくり鍵に手を伸ばす。仕事中の社員の声が聞こえてくる中、デスクに隠された死角でふたりだけの秘密を共有している気分。

受け取ったそれを大事にぎゅっと握りしめると、不破さんは書類集めを再開し、なにげない調子で言う。


「俺が帰ったら送るから、それまで適当にくつろいでて。冷蔵庫の中のものとかも食べていいし」


へぇ、家まで送ってくれるのは初めてじゃないかな。用事が済んだらひとりで帰ればいいものを待っていろってことは、きっちり合鍵を返してもらいたいのかもしれない。

それにしても、彼の部屋でわが物顔で過ごしていていいだなんて、なんだか……。


「まるで恋人同士ですね」


呆れにも似た笑いをこぼし、思ったことをそのまま口にした。しかしすぐにはっとして、書類に伸ばした手をぴたりと止める。

うわ、なんか恥ずかしいことを言っちゃったよね!? また変な妄想をしていると思われたら困るし、ここはひとまずなかったことにしよう。