静かに視線を絡ませたまま、彼の形のいい唇が「アリサ」と動いた。その声にはいつもの力強さが戻っている。

もしかしたら、彼のテリトリーに土足で踏み込んだことへのお叱りを受けるのかもしれない。私は背筋を伸ばして気を引き締める。


「はい」

「嫁にくるか、俺のとこに」


──は?

まったく脈絡のないセリフが飛び出し、私は間抜けな顔でフリーズした。

なにやら衝撃的な言葉が聞こえましたけど。
“嫁”? え、プロポーズ? タイミングおかしいでしょ、っていうか、いろいろおかしいでしょ!

ふざけているとしか思えず、うっかり反応しそうになってしまった心臓を宥め、デスクに手をついて声を荒げる。


「社長、茶化さないでください! 私は真剣に──」

「俺もわりと真剣なんだけどな。お前の男気に惚れた」


片手で頬杖をつき、上目遣いで甘く微笑む彼のひとことに、宥めていた心臓はあっさり飛び上がった。

ほ、“惚れた”とか突然言われると反応に困る。本当に本気なのか、いまいち信じられないけれど。