「佐藤社長もずっと奥様に申し訳ない気持ちがあったそうで、『変更していただけるならそのほうがありがたい』と」


先方から言われたとなれば、いくら不破さんでも変更せざるを得ないだろう。案の定、彼は驚きと少々の呆れが混ざった顔にすっかり変わり、返す言葉を失くしていた。

形勢逆転したような気持ちで、私も表情を柔らかくして明るめの声を投げかける。


「予定も空いたことですし、社長も大事な場所に行かれてはいかがですか? もし行く勇気が出ないのなら、私がお供いたします」


言い合う気力もなくしたらしい不破さんは、私の言葉に反応して目線を上げ、ぽつりとこぼす。


「……なんで」

「私は他の人よりも、少しだけ社長の気持ちがわかるつもりです。それに、公私共にあなたのサポートをするのが私の役目ですから」


そう言って口角を上げてみせる私を、彼はじっと見つめる。

その瞳はどこか憂いを帯び、切なげで、かつ冬の夜空のように澄んでいて、とても綺麗。この瞳に春の日差しの温かさを与えてあげたい、と心から思う。