しばらく重苦しい沈黙が続いたあと、私はおもむろにフォークに手を伸ばし、冷めきったパスタを口に運び始めた。

食欲なんてとうに消え失せているけれど、出されたものを残すというのは私の中でマナー違反だ。

なんとか胃に押し込み、これまた冷めているカプチーノを飲み干して、バッグの中を漁る。

急に動き出した私を、颯太はぽかんとして見ていたが、財布を取り出すとはっとして制してくる。


「待って、僕が──」

「いいの、今日は私が出すつもりだったから。それに、優しくされると惨めな気持ちになるだけだし」


毅然と言って、野口さんを二枚テーブルに置くと、さっさと腰を上げた。コートを羽織り、今しがたの言葉に補足する。


「でも、そういう颯太の優しさにたくさん救われたよ。ありがと」

「麗……」


なんであんたが泣きそうな顔してるのよ、こっちは無理やり口角上げてるっていうのに。

そう心の中で物申して、緩みそうになる涙腺をなんとか引き締める。

予期していた別れでも、やっぱり悲しいし、寂しい。これからも一緒にいたかった。

……でも、もう戻れない。戻らない。
終わった恋にしがみついていたら、みっともない。