裕太〜

走り終わって周りに視線を走らすと小柄な女子を見つけた。

金に光る物を手に持ち少し前かがみになって軽く揺れている。

綺麗に響く音。

人に囲まれながら目を奪われる。

「・・・。」

柚菜。小柄な女子の名前。県大会で優勝経験もある陸上選手。けどもうあいつは走らない。短距離は走るけれど持久走なんかはいつも見学だ。

俺のせいで。

「柚菜?」

「裕太!お疲れ!」

「お疲れ。柚菜。」

「1000メートル?」

「うん。」

「いいなぁ。」

茶髪に染めた髪がゆらっと揺れる。前の長い黒髪の方が似合ってたのに。あの日にそめたんだ。

僅かな沈黙のあと。

「走れば?」

「え?」

「柚菜の負担にならない程度に。100一本ならいい?」

パアッと顔を輝かせた。

「今度おいでよ。練習。付き合って。」

「え・・・いいの?」

「あたり」

当たり前。そう言おうとした時高いソプラノの声が聞こえた。

「ちょっと〜裕太!何してんの!」

「雛先輩。」

柚菜と先輩が自己紹介を交わしていたとき先輩が

「何で吹奏楽部?なんで陸上部入らなかったの?県大会で優勝なら勧誘されてたでしょう?」

「えっと・・・。」

「雛先輩。ここでいいですか?」

手を引いて去ろうとする俺に柚菜は応援の声をかけた。

「走れなくなったんです。」

「え?」

振り向いた先輩。

「私。怪我して走れなくなりました。100mは走れるけれどそれ以上は走れなくなりました。ハードルとかもダメです。」

悲しそうにでも笑顔の柚菜にひたすら謝りたくなった。

俺のせいで。ごめんと。

くされ縁だったのにいつの間にか彼女から離れられなくなった。