【アカリ17歳の3月2日】

自分の中にある、残して来てしまった人達の心配や不安。
でも、私はそれをヴァロンになかなか言えずにいた。

だって、この港街で生活を共にする彼は毎日忙しそうなんだもん。
そんな中、私との結婚式の事も考えてくれてる。

これ以上、彼に負担をかけたくなかった。


「こんな時間に帰って来れるなんて珍しいね」

ヴァロンが脱いだ上着を預かりながら、私は微笑む。
ますますお仕事が忙しいんだろうな。
ここのところいつも、深夜か明け方の帰宅が多い。


「ああ。実はさ、今日15時からここに客が来るんだ。
……で、アカリにお願い。
お客様の為になんかお菓子作ってくんない?」

「えっ?
わ、私の手作りで……いいの?」

予想もしていなかった彼のお願いに、思わず質問返しをしてしまう。

ヴァロンの役に立てるのは嬉しい。
でも、大切なお客様のお茶菓子なんて責任重大だ。


「アカリのお菓子がいいの。
……って、俺が食べたいんだけど。駄目?」

戸惑う私の頭を撫でながら、ヴァロンは首を傾けて微笑む。