「この宝石箱には、きっと中身なんて必要なかったんですよ。
だって、お二人には……。お嬢様という1番の宝物が、ずっと近くに居たんですから」

バロンの穏やかな白金色の瞳が、私を見つめる。
聖なる光のような眼差しと、優しいオルゴールの音色に、涙が溢れて頬を伝ってポタポタと落ちた。


「っ……不思議だね。
バロンの言葉はいつも、私には魔法の呪文に聞こえるの」

勇気をくれたり。
喜ばせてくれたり。
時々、切なくなったりするけど……。

でも、私を1番幸せな気持ちにしてくれる。
世界中でただ一人、きっともう彼以上に想える人なんていない。

一生に一度の、恋。


「っ……傍に、いて」

私は宝石箱を両手で握り締めながら、呟いた。

一生分の我が儘と運を、使っても良いと思った。


「お願いっ!
私の傍に……。っ?」

「傍にいて」と、もう一度言おうとした私を止めるように……。
バロンの大きな手が、宝石箱を持つ私の両手を包む。