当然だ。
人前に堂々とヴァロンが姿を見せるなんて、滅多にない。
依頼人でさえ、会えない事があるって噂だ。
そのヴァロンが、今……目の前に居るんだ。
「やる気出た?
金バッジの夢の配達人君?」
悲鳴に近い歓声に包まれながら、バロンは白金バッジを胸ポケットにしまうと、頬杖をついて首を傾げる。
「……。ハ、ハハッ……!
オレ様は運がいいねぇ~ッ!!」
暫く茫然としていた大男は、笑いながらグラスを掴み、勢い良く8杯目を空けた。
「神出鬼没のヴァロンと会えるなんてなッ!」
「……。
人を珍しい動物みたいに言わないでくれる?」
バロンの暴露にすっかりご機嫌になる大男。
一方。9杯目を飲み干したバロンは、少し不機嫌そうな表情を浮かべていた。
ーーそんな中。
みんなが彼をヴァロンだと信じる中。
私は少し、違和感を感じていた。
何でか、分からない。
分からない、けど……。
これはバロンの演技だって、思った。
だって私の目には、”大好きな貴方”にしか、見えなかった。



