「っ……バロン?」

彼の前に回していた手を、ポンポンっと軽く叩かれる。

その優しい合図に私がゆっくりと背中から離れると、バロンはその場から歩き出して……。
少し屈むと地面に手を伸ばした。


チリンッ……!

私がさっき落とした、猫バロンの鈴。
バロンはそれを拾うと、ゆっくりと私の方に戻ってきて差し出す。


「……これが、教えてくれた。
暗い森の中、猫バロンの鈴が聞こえた」

「!……あ」

自分では気付かなかった。
胸ポケットに入れてたから、私が逃げようと必死に走った時に揺れて鳴っていたのだ。

猫バロンが、私とバロンを会わせてくれたんだね。


ありがとう。
心の中で呟きながら、私は受け取った鈴を大切に掌に包んで微笑んだ。

ようやく緩み始めた緊張の糸。

ーーだが。
表情を綻ばせる私の頭を大きな手が包み、そっと親指が前髪を上げる。


「……。
遅れてごめんね、アカリ」


ーーえっ?!

額に感じる、柔らかく温かい感触。

なんと。
私のおでこに、バロンの唇が触れていた。