夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】


***

一ヶ月後。
別荘の使用人達が寝静まった深夜。
耐え切れなくなった私は唯一、一人になれるタイミングを見計らって脱走を試みた。

私の部屋は二階。
窓を開けてバルコニーの柵にカーテンを結び付けると、それを必死に掴んで下まで降りる。

結構な距離があるが、不思議とこの時は恐怖を感じなかった。
おそらく”この場から逃げたい”という気持ちの方が勝っていたのだろう。

何とか地面に足が着き、ホッと一息。


しかし、安心してはいられない。
警備の者に気付かれたら、すぐに連れ戻されてしまう。


逃げなきゃ……!


私は走った。
見慣れない場所、知らない土地。

何処に何があるのか。
どっちに行ったらいいのかも、分からない。

気持ちばかりが焦って今にも縺れてしまいそうな足で走る、暗い闇、辺りには深い森……。
小さな虫の鳴き声や、鳥の羽音さえも、聞こえてくる度にビクビクとしてしまう。

でもーー。
恐怖を抑え込んで、走っても、走っても、走っても……。

瞳に映るのは、見た事ない景色ばかり。


逃げられない。
行く所も、ない。

足を進める毎に湧き上がってくるのは、希望ではなく絶望という名の感情。


分かってた。
こんな事しても無駄だって、分かってた。