「勤め先なら、いくらでもおまえの望むところを紹介するぞ」
「ならば、俺が勤めたいと思うお屋敷はひとつだけ。ここ、島田様のお屋敷です」
「石塚」

惜しい、と思う。
新左衛門がこれから行うことは、将軍家に刃を向けることだ。
ことが成就するにせよ、しないにせよ。
自分に関わる者達には、必ず類が及ぶ。
この屋敷や、新左衛門に仕える者たちには、そんな災いを与えたくない。

「俺は、お目付役の役職を解かれた身だ。人を雇える身分ではない。おまえは若い。能力もある。俺のために、自分を無駄にするな」
「島田様は、何も聞かず、俺を雇ってくれました。その恩義を返すのは今だ、と思ってます」

何か仔細を抱えているのだろう、とは思っていた。
でなければこれほどに、清冽な双眸を持つことはできないだろう。

「島田様。俺は、これ、と思い定めた主人に仕えることが侍だと、決めています。島田さまが役職を解かれたのは、何か大事のため。そのために、俺を手足として使ってください」
「石塚……!」

石塚が、居住まいを正し、新左衛門の前に頭を下げる。
そうだ。
ひとりで成し遂げられることではない。
石塚のように、新左衛門の意を汲み取り、動いてくれるものは必要だ。
だが。