末期の胃がんで、もともと半年も持たない身体だった。
解剖の結果を聞かされて、勇次は後悔に自分が崩れてしまいそうだった。

苦しそうな姿なんて、秀一は一度も勇次には見せなかった。
そしてそれは、勇次にだけではなく。

看護師でありながら、秀一の変化に気付けなかった継母は、初めて勇次に涙を見せた。
医者の父は、必死に、怒りをこらえているようだった。

「兄さんって、ほんとに、ひとりっきりだったんだよな」

たったひとりで、病気と闘って。
そのうえ、そんな身体で、紅を苦しめてきた大麻の密売組織と渡り合っていた。
もう、紅も、自分たちにも、危険はない。

どうして。
どうして兄は、たったひとりでこんなことをしたのだろう。
兄よりもむしろ、紅や、勇次が決着をつけなければいけないはずだった。

「言ってくれれば、よかったのに。そうしたら」

「勇次様。秀一様は、勇次様のことを、守りたかったんだと思います」

「そんなの……!俺だって、兄さんをこんなふうに、死なせたくなんかなかった!なのに」

幸せになってくれ。

最後に言い残した秀一の言葉。
まさか、秀一がずっと、勇次にそんな願いを持っていたなんて、知りもしなかった。
自分はずっと、秀一に守られていたのだ。