自分も、無理やり泥の中に這いつくばらせられるような思いを、何度もしているはずなのに。

山倉の二代目は、そう言って柿本たちを抑えてきた。

臆病者と、罵られながら。


「坊は、悔しくないのかよ。俺たちにとっても、組長は大切な親父だった。その仇もとれねぇで、何を信じたらいいんだよ」


極道にも、その世界なりの、通さなければいけない道理はある。

それが通せないから、柿本も、こんなせこいシノギまでしなければならなくなる。


「ちくしょうっ」


殺してやる。

柿本の脳裏に、また、正義面をした佐倉の顔が、浮かぶ。

田島組に落とし前が付けさせられないなら、せめて、鉄砲玉をやったあの男を殺してやる。

がんっ、と机にグラスを叩きつけて、柿本は立ち上がった。


「……おい、どうした。柿本」


店に入ってきた若者が、柿本に声をかける。


「……坊」