「……くそっ!」


柿本は、手垢のついた、ビール会社の名前の入ったグラスで、ぬるい日本酒をひと息に喉に流し込んだ。

喉が焼けるが、酔いは回ってこない。

いや。

怒りばかりが突き上げてくることが、酔いのせいなのかもしれない。


あいつのせいで。


正義面して、柿本たちが、金を脅し取ろうとした若者を連れ去って行った男。

忘れるはずがない。

山倉組の組長を、柿本にとって守るべきだった男を殺した、佐倉春夫。


あれからの9年、地獄のようだった。

敵対する田島組が台頭し、次々にシノギの場所を奪っていった。


(親父は、田島組にやられたんだ)


襲撃を、柿本は何度も組長の息子に頼み込んだ。


「なんで、親父さんを殺された俺たちが、我慢しなきゃなんねぇんです?」

「証拠がねぇだろ。
こっちが短気起こして襲撃してみな、待ってましたとサツと田島に潰されちまう」