「あ、困ります、四方さん、わたしの分はわたしが……」

あわててバッグから財布を取り出そうとしたが。

ない。

財布が見当たらない。

そんなはずはない、とあせってバッグの中をひっかきまわず。

やっぱりない。

どこにもない。

あれ、どこに置いてきたんだろう、と考えを巡らそうとして。

ふいに気がついた。

つい先ほどまで店内を満たしていたざわめきが今は消え、あたりがしーんと静まりかえっていることに。

どうかしたのかしら?

と、いぶかって、顔を上げた。

「え?」

ぎょっとした。

店内にいる客と従業員の視線が、わたしに集まっているのだ。

制服を着たOLたちも、暇そうなおばちゃんたちも、作業服を着たオッチャンたちも、とうの立ったウェイトレスのひとりひとりも、みな、珍獣をながめるような好奇の目で、私を見つめている。

あわててレジのほうを見ると、四方はもう支払いをすませて店を出ていったようだ。