(それでも、これからも彼女は、恋と仕事のどちらかを選ばないといけないときには、きっとまた恋のほうを選ぶんだろうな)

川中さんの遠のいていく姿を見ながらそう考えたとき、ふいに、うしろから声をかけられた。

「今の人、友高さんの部下のかたじゃなかったですか?」

ふり返ると、笑顔の四方が立っていた。

「ええ、そうです」

「なにか込み入った事情がありそうですけど……訊かないほうがいいいですよね?」

「ええ、まあ……」

なんだ、プライベートでも、それなりに配慮できる大人なんじゃない。

と、ここでもちょっと見なおした。

「そうそう、森さんが仕上げてくれるまで、コーヒーでも飲もうと思って。友高さんもどうですか?」

四方が廊下のつきあたりに置かれた自動販売機のほうを指した。

「あら、いいですね」

ちょうどひと息入れたかったわたしは、四方といっしょに歩き出した。