「あの、係長?」

「なに?」

「あの……今さら言えた義理じゃないんですけど……あの、月曜日に辞表を出すっていうの……」

あー、そう言えば、そんなことを言ってたっけ。

夕方のことを思いだし、わたしは適当にあしらおうとして……。

ハッとした。

うつむきかげんの川中さんが、うるんだ目で、見上げるように、じっとわたしを見つめている。すがるような目つきで。

ああ、いけない。これは、流してはいけないところだ。

と、唐突にわたしは理解した。

言いようを間違ってはいけない。

仕事をしていると、失言なんて山ほどある。単純な言い間違いであったり、秘密にしておかなければならないことを、ついうっかり漏らしたり。

なかでもタチが悪いのが、何気ないひとことで相手を傷つけたり、怒らせたり、恨まれたりすることだ。

なぜタチが悪いかと言うと、自分のひとことが相手を害したことに気づかないことが多いからだ。そうして、気づかないうちにまわり中のやる気をそいでしまい、時には敵をつくっていたりする。

わたしは今、大事な分岐点に立たされている。