こと恋愛経験に関しては、たぶん川中さんのほうが、わたしより一桁上のベテランだと思う。

そんな人にアドバイスするのはおこがましい、という気はしたが、それでも言った。

「そうね、そういうときは、友だちとパーッとお酒でも呑んで、気晴らししたらどう? あ、ごめん、つき合ってあげたいけど、わたし、まだ仕事が残っているから」

「仕事、あたしがしますから」

「え?」

「すみません。マニュアル、徹夜してでも、仕上げますから」

「いいのよ。いろいろ他人から手伝ってもらって、もうあといくらもないの。川中さんは、とにかく帰りなさい。ね?」

「仕事、させてください。気がまぎれますから」

「だって……」

どう見ても、とても仕事ができる雰囲気ではない。

それでも川中さんが、

「お願いします。仕事、させてください」

と粘るものだから、OKせざるを得なかった。

「わかったわ。じゃあ、とにかく、お化粧だけは直してきたら?」

「はい」

かぼそい声で返事して、きびすを返そうとした川中さんだったが、そこでもう一度わたしのほうへ向きなおった。