「その机、もうちょっとこっちへくっつけて」

「そっちへ?」

「そう」

ドキュメント課の職場に入るなり、野太い女性の声で指示が飛び、か弱い男の声が応えるのが聞こえた。

ビア樽のように太った若い女性が、小湊課長をこき使って、机を移動させているのだった。

職場の中央に固まっていたわたしたち4人の机は、そのうちの2つが隅っこにどかされ、その上に、4人分のパソコンが積み上げられていた。

パーテーションの前に移動された机に、ビア樽の女性が陣取って、見慣れないデスクトップパソコンに向かっている。パソコンと19インチのディスプレイモニタを接続しているのだ。

職場にいたのは、ビア樽の女性と、小湊課長のふたりだけだ。

うちの課員たちは、退社時刻とともに帰宅したようだ。

小湊課長が、机を女性の机の横にくっつけて、訊ねた。

「これでいいかな?」

「はいはい、ありがと。じゃあ、次に、あのディスプレイを、その机に載せて」

女性が指し示した先には、手押し台車に載せられた40インチくらいの大きな液晶ディスプレイがあった。

「はいよ」

気さくに返事して、小湊課長は取りにいこうとする。