「諸橋さん、申し訳ありませんが、これは、そちらのミスです。ですから、お客様にお願いして、納期を数日のばしてもらうのが筋かと」

「馬鹿野郎ッ。何言ってるんだ。このお客はな、1千万円の機械をポンと3台買ってくださったんだよ。これから先も、まだまだ1億、2億と取引できそうな上客なんだよ。そのお客にたてついてどうするんだよ」

「しかし、非はそちらに」

「うるせぇッ、お前らタダメシ食いが、だれのおかげでメシ食ってると思ってるんだ。おれら営業が注文とってくるからだろうが。つべこべ言わずに、徹夜してでも仕上げろ。わかったかッ」

さすがにそこまで言われると、カチンとくる。

わたしは腹の底から煮えくり返る怒りを抑えることができなくなった。

諸橋氏をにらみつけ、売り言葉に買い言葉で言い返そうとしたところへ、後ろから割って入ってきた声があった。

「まあまあまあ、友高くん、いろいろと言いたいことがあるだろうけど」

小湊課長だ。

デスクワークではほとんど役に立たないこの人が、なぜ課長になれたかというと、この「まあまあ」と相手をなだめ、足して2で割る、あるいは全面的に妥協する、交渉術にある。のだと、たぶん、思う。