わたしはひとりひとりの席の横に立ち、聞き取りを始める。

斉藤慶子さんは50歳。義理の母親の介護でいつもふうふう言っている。斉藤さんの業務は特に問題なかった。

足立由美さんは29歳。旦那さんが非正規の社員で稼ぎが少ないとかで、がんばって残業をこなし、収入を増やすのに余念がない。足立さんのほうも問題なし。

残るのは、26歳と、わたしたちの中では一番若いのに、一番仕事の遅い川中理恵さんだ。

「川中さん、どう、仕事の進みぐあいは?」

「はい、まあ……大丈夫です」

かん高くかぼそい声で、たよりない返事が返ってくる。待っても、その続きは出てこない。

もちろんそんなことぐらいでイライラしていたら、ここの係長は務まらない。

川中さんには、先日社長が商工会議所で行なった1時間の講演を、原稿に起こしてもらっている。今度の社内報に載せるためだ。

「どう? ちょっと見せて」

わたしは川中さんのディスプレイをのぞきこむ。