3月生まれの恋人

不意に鼻の奥がツンとする。

和真はいつから“綾香”と自分を天秤にかけていたのだろう・・・

腰に廻した手を外さなかった和真



『ダメ・・・』



雨の中散々泣いた筈なのに、もう裏切った男の事なんかで泣きたくないのに・・・

止めようと思えば思うほどに零れ落ちる涙



『慰めてやろうか?』



暗闇の向こう側で、大きなシルエットがゆっくりと起き上がった



『和真って奴に振られたの?』



耳障りのいい低音は、優しい救いの神の声

我慢していた涙腺が、音を立てて・・・切れる



“うっ”“ひっく”



目の際に溜まっていた涙が、大きな粒を作ってポロリと零れた瞬間

あたしは少し強引に、その広い胸に抱き寄せられた



『いいよ、泣きたいだけ泣けよ』



耳元で囁くように彼は言い、大きな手は優しく髪を撫でた



“ひっく”“ひっく”
“うえ〜ん”



それはまるで、泣く子をあやす親のような手



『君を捨てる男がバカなんだよ』



名前すら知らない男なのに、その胸は和真のそれより心地よくて

あたしは無意識に彼の背中に手を回して・・・泣いた。