週末は初夏の風が爽やかな日だった。臨海地区にほど近い公園は、気軽にBBQが出来ると最近人気のスポットらしい。

私は重いクーラーボックスを軽々と肩に担いで、西島さんと並んでテントまで歩く。海の香りがほんのり漂っていて素敵な週末を予感させた。

「チャンスだよ」
西島さんが私に耳打ちした。

「なんの?」
「だから、正体を知るチャンス」
西島さんは小さくガッツポーズをすると、大きく膨らんだレジ袋の手を持ち替えた。

私は秘密にしているのが申し訳無くて、心がちくちく痛む。でも佐伯さんが誰にも知られたくないのなら、勝手に話してはまずいだろう。

「ねえ、本当に塩見さんが社長だったらどうするの?」
「そりゃもう」
西島さんは目を輝かせる。

「論文の話をする。彼のプログラムは、本当に無駄がなくスマートなの。だからその思考を知りたいよね」
「へえ」
「それから、写真とってもらう」
そう言って、ちょっと頬を赤らめた。

私はずっと運動畑で来たのでプログラムとかはさっぱりわからないけれど、私が綺麗に一本を決めた時の、あの興奮と似たような快感があるのかもしれないな。

「こっちー」
山本さんの声がして顔をあげると、既設のテントの影の中に人がいるのが見えた。

「お待たせしましたーっ」
私は大きな声で手を振る。西島さんも隣で頭を下げた。