会社に出社してからも、ずっとぼーっとしてる。微熱を出したような、ふわふわして少し気だるくて、でも学校をズル休みできるってちょっとワクワクしているような、そんな感じ。

今日目が覚めたら、私の腕に絡まっていた紐がそのまま床に垂れていて、後ろからまるで抱えられるみたいに抱きしめられていた。カーテンの空いた窓からは、薄青の朝の空が覗いて、いつの間にか停電が直ったのか、空調が効いていた。冷たい風が作業ルームから流れてくる。

私は腕の先の紐を引っ張って取ると、そっと体を起こした。

「う……ん」
佐伯さんがもぞもぞと動いて、薄眼を開け、明るい日差しに少し眩しそうにした。それからちょっと乱暴に指で目をこすって、目を開ける。

「おはよう」
「おはようございます」
「こんなに寝たの、すごい久しぶり」
佐伯さんはムクッと起き上がって、癖のついた髪をもしゃってかく。

「朝、隣に野中がいるって、いいな」
そう言って私に笑いかけた。

「ふう」
思い出すとポッポと顔が熱くなってくる。本当に熱が出ててもおかしくない。昨晩特に何をしたってこともない。ただ手をつないで寝ただけなんだけど。私がおかしくなっちゃった。

「あれ、熱?」
出勤してきた鈴坂さんが心配そうに声をかけてきた。

「違うとおもいます」
このぽーっとなってるのは、全然熱じゃない。絶対佐伯さんのせいだ。

「でも顔が赤いし。忙しくないんだから無理しないで帰ってね」
「じゃあ、限界になったら。ありがとうございます」
私は頭を下げた。