あの夏に見たあの町で



沈黙を破ったのは母親だった




「朔、今日から朔はおじいちゃん家で暮らすことになったから」



「なんで!?嫌だ!」



俺は母親と新とあーちゃんがいるこの街がいい




けど




母親は女が固い決意した時に見せる表情で俺に言う



「お父さんも亡くなって、頑張ってきたけど、もう無理なの。新と朔と2人も育てていけない。朔が帰ってきてももう朔の場所はないから」



そう言って、病室を出ていった母親の姿を消した扉を呆然と見つめた




なんで?





なんで俺だけ...





ジジイと2人、無言の病室に看護師さんがやってきて、書類をジジイに渡して俺の左腕に繋がれた点滴を外していった





「行くぞ」



有無を言わさないジジイの後ろを重い足取りでついていった






ジジイの秘書の運転で生まれ育ってきた町から離れていく




唇を噛み締め俯く俺にジジイの声が降り掛かる




「朔、これからお前は有栖川朔だ。腕の治療とリハビリをして、有栖川グループの後継者として教育を受けてもらう。それが母親との条件だ」





「見返せ。捨てられたのが悔しければ、必死で食らいついて地位を手に入れろ。そして捨てたことを後悔させてやれ」





頷くこともせず、ただ唇に血が滲む程に噛み締める力を強くするしかできなかった