驚愕の思いでぎゅっと目を閉じた瞬間、すぐ耳元でアルフレッドの大爆笑が聞こえた。
「そんなにぎゅうって目をつむるなよ。エミリア、人相まで変わってるぞ」

その失礼な物言いにエミリアは首まで真っ赤になって、ちょっと腹を立てた。
「そんな言い方ないじゃない! やっぱりアルは、意地悪アルフレッドだわ!」

「なんだよそれ?」
涙まで流して大笑いするアルフレッドにつられて、エミリアも思わず笑い出す。

けれど実際のエミリアの胸中は、たった今気づいてしまった事実に、笑うどころの気持ちではなかった。

それがアルフレッドの心からの思いだったにしろ、雰囲気に流されたのにしろ、アルフレッドは多分今、エミリアにキスをしようとした。

二人とも笑い出してしまって、すでにそんな甘い雰囲気はもう跡形もなく消え去ってしまったが、もしさっきアルフレッドとキスしていたら、果たしてどうなっていたのだろうか。

――エミリアは必ずミカエルに恋をする。
――エミリアがキスしたら、ミカエルは本当の姿を取り戻す。

母の話が全て本当だとしたら、アルフレッドはいったいどうなっていたのだろう。
エミリアとキスして、本当の姿を取り戻して、その先は――。

(お母さんが言うところの『天界』とやらに帰って、大天使ミカエルの後継者として生活していくんじゃないの? だとしたら私はもう二度と、アルには会えないんじゃないの?)

そんな大切なことに、エミリアはこの時になって初めて気がついた。

アルフレッドと笑って別れた後、エミリアはこぶしを握りしめて急いで家に帰った。
自分の疑問の答えを知っているだろう母に、一刻も早く会うために――。