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「何だい、辛気臭い顔して。疲れ果てたサラリーマンみたいだよ」

 帰宅した俺に向かって、相変わらず辛辣な言葉を吐く母親。

「うっさいなぁ、もう」
 
 鬼ババのクセにと内心思いながら目の前を通り過ぎようとしたら、頭の上に何かを乗せられた。

(こんなところに、物を乗せるなよ……)

「ん? 饅頭?」

「3時のオヤツだよ。遠慮せずに食べな」

「……しかも、ちゃっかり賞味期限がきれてるけど」

 渋い顔して、饅頭の裏側に記載されている日付を母親の顔に向けてやると、何を言ってんだいとカラカラ笑った。

「大丈夫さね。1日くらい過ぎてたって、腹は壊しゃしないから。お昼のデザートに食べたけど、あたしのお腹は受けつけてくれたよ」

「いらん」

「ああ、可哀想に! せっかく仏壇にお供えしたものをあり難く戴かないなんて、そんな息子に育てた覚えはなくってよ」

 下手っくそな演技で泣き崩れる母親に、呆れ果てるしかない。

 学校は学校で例の問題のせいで頭が痛いというのに、自宅ではコレだもんな、まったく。

「分ったよ、食べるから」

 饅頭をテーブルに置き、台所で手を洗ってから椅子に座った。目の前にはウキウキ顔の母親が不機嫌な息子を見て、小首を傾げる。

「そんでお前、どうしたんだい? また、キレイな女の子に恋しちゃったとか? 残念なことに幽霊だったんだろ」

「その方が早く解決するだろうね。事態はもっと最悪だよ」

 眉間にシワを寄せて饅頭を頬張ったら、自動的に温かいお茶を出してくれた。

「最悪な事態?」

「そうだよ。学祭のクラスの出し物で、俺の霊能力を使おうってことになっちゃってさ」

「そりゃ面白そうだね。たくさんの悪霊を引き連れて、あたしが行ってやろうか?」

 息子に試練を与えることを、嬉々としている母親である。言ったことを実践しそうで、非常に怖い。

「対処ができないのを分ってるクセに、酷いこと言うなよ」

「まぁまぁ。半人前のお前に、ピッタリな企画じゃないか。何が嫌なんだい?」

「その半人前の中途半端具合を、クラスの奴らが分ってないからさ。何かあったら、どうするんだろうって」

 その何かあったときのことを考えて、クラスの奴らに分かるように説明をしたのだ。そしたら――。

「ただ幽霊が憑いてるかどうか、視るだけになったんだ。それにプラスしてタブレットのアプリで、占いもやってみようってことになった」

 経費削減もいいトコだ。こんなので、本当に人が集まるんだろうか。

「何はともあれ、経験を積むしかないからね。いい修行じゃないか、頑張りな」

 宥めるように頭を撫でてくれる母親に、うんざりするしかない俺。いろんな不安を抱えながら、当日を迎えたのだった。