燦燦と太陽の光が降り注ぐ王宮の奥にある国王専用のプライベートガーデンに招かれたアントニウスは、仰々しく臣下の礼をとろうとしたが直ぐに『堅苦しいことはなしだ、アントニウス。叔父と甥の仲ではないか』とリカルド三世に言われ、そのまま叔父に向き直った。
「どうした、急に大事な話があると聞いたぞ」
 庭を進みながら、リカルド三世が問いかけてきた。
「実は、ロベルトの口からお耳に入る前に、叔父上にお話ししておきたいことがございまして」
 アントニウスが言うと、庭のほぼ真ん中あたりにある四阿のベンチにリカルド三世は腰を下ろし、隣に座るようにアントニウスを促した。
「ふむ、さては、結婚の話だな」
 甥の改まった話と言うのが、まだ親にも話していない、エイゼンシュタインの貴族の令嬢との結婚に違いないと、リカルド三世は察していた。
「さすが、叔父上です」
 アントニウスは言うと、アレクサンドラの名前を出すタイミングを窺った。
「お前と釣り合う年頃の娘は沢山いるが、ほとんどは、一度はお前と浮名を流したことのある者ばかりではないのか?」
 自由恋愛に勤しんでいる甥を破廉恥とは諫めないものの、改まった話をする相手がいただろうかと、リカルド三世は頭の中にある貴族の令嬢一覧を確認した。
 国王として、貴族の令嬢の結婚には、全て国王であるリカルド三世の許可がいるため、双方の両親が公式の謁見を申し入れ、これこれの二人の結婚の許可を戴きたいと許可を求めるので、常にリカルド三世の頭の中のリストは最新版に更新されている。
「さて、こうして考えてみると、年齢の近い娘たちはほとんど婚約しているはずだが」
 実際、息子である王太子の相手を探すときに一覧を参照して可能性の少なさに絶望したくらいで、歳の離れた娘を選ぶのでなければ、ロベルトより年上のアントニウスが相手を探すのは、エイゼンシュタインは理想的とはいいがたい。もちろん、身分を気にしなければ、相手はそれなりに沢山いるが、やはり公爵家の嫡男となると、隣国の子爵家や男爵家の令嬢と言うのは好ましい相手とは思われない。
「そろそろ、白状してはどうだ?」
 リカルド三世に促され、アントニウスは決死の覚悟で叔父の方に向き直った。
「実は、私が妻に迎えたいと思っておりますのは、アーチボルト伯爵家のアレクサンドラ嬢でございます」
 アントニウスの言葉に、リカルド三世の顔がこわばり、笑みが消えた。
「つまり、ロベルトの妃候補の一人を妻に迎えたいというのか?」
「はい、さようでございます」
 アントニウスが頭を下げると、リカルド三世がすっくと立ちあがった。
「誰か!」
 共を呼ぶリカルド三世に、アントニウスは四阿の床に膝を付け、叔父を見上げた。
「どうか、お待ちください。叔父上に、お話しておきたいことがございます」
 必死に頼むアントニウスの姿に、リカルド三世は近づいてきた侍従を下がらせ、再び四阿のベンチに腰を下ろした。
「お前の言い訳を申してみよ」
「はい。実は、ロベルトとジャスティーヌ嬢は、幼いころより結婚を約束した仲、相思相愛なのでございます」
 突然のことに、リカルド三世は言葉の意味を理解するのに苦労した。
「ロベルトとルドルフの娘のジャスティーヌが恋仲だと? 一度も耳にしたことがないぞ!」
「では、本人にご確認ください」
 アントニウスの言葉に、リカルド三世は再び侍従を呼びつけるとすぐに王太子を連れてくるようにと指示した。