「お父様!」
 アレクサンドラは声を上げながら両親が寛ぐ居間の扉を蹴破るようにして開けた。
 いつもの事ながら、レディとは思えない激しい怒声と行動力に母は目を両手で覆い、父は頭を抱えた。
 このアレクサンドラの怒りの行動を目と耳にするに当たり、今夜のロベルト王子との舞踏会への出席が円満で明るい将来につながるものにならなかった事は一目瞭然だった。
 そして、アレクサンドラはロベルト王子への敬意も払わず、両親が耳を覆うような罵詈雑言を桶の水をぶちまける勢いで言い連ねた。
「アレクサンドラ、いい加減になさい!」
 必死にアレクサンドラを止めようと、背後から腕に縋るライラの姿に、アリシアがとうとう声を上げた。
 アリシアの鶴の一声でライラはアレクサンドラの腕に縋るのを止めて直立不動になり、アレクサンドラもピタリと口を閉ざしてその場に立ち尽くした。
「お母様は、あんなに泣きはらしているジャスティーヌを可哀想だと思わないのですか? あんなに泣き続けるなんて、絶対に貞操の危機だったに違いないんです!」
 アレクサンドラの言葉に両親が顔をしかめた。
 相手が王子と言っても、さすがに未婚の娘を傷物にされるのは両親としても見過ごせない重大事だ。
「これ以上、僕の代わりにジャスティーヌをあの女狂いと出かけさせる事は絶対に反対です!」
 アレクサンドラはジャスティーヌが自分の代わりに王子と交際しなくてはいけないことを棚に上げて言い切ると、来たときと同様に挨拶もせずに部屋から出て行った。
 丁寧に挨拶をして、あとを追いかけるライラを二人は無言で見送った。


 階段を駆け上がり、アレクサンドラが部屋に戻ってもジャスティーヌは泣き続けていた。
「ジャスティーヌ?」
 アレクサンドラが声をかけても、ジャスティーヌは返事をしなかった。
 夜会用のドレスに合わせてコルセットできつく締め上げられたウェストは、いつもより五センチ以上も細いのではないかと思われるほど細い。
「ライラ、ジャスティーヌの着替えを手伝って上げて」
 アレクサンドラの言葉に、ライラがジャスティーヌに歩み寄り、ジャスティーヌを宥めながらゆっくりと着替えさせ始めた。
「私も着替えてくる」
 アレクサンドラは言うと、自室に駆け戻っていった。

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