公爵への叙爵式の準備を進めているアーチボルト伯爵家に火急の知らせが王宮より届き、ルドルフ以下アーチボルト伯爵家の面々は全員『アレクサンドラ帰国』の知らせに茫然とした。
 父であるルドルフが白い結婚になることを許可し、その母であるマリー・ルイーズが同様に許可してザッカローネ公爵家に滞在し、アントニウスの看病をしていたアレクサンドラがアントニウスの意識が戻り、そう日も経っていないのに送り返されてくることに誰一人言葉が見つからなかった。
 ただ使者は、ザッカローネ公爵家からの正式な依頼であり、国境まではザッカローネ公爵家の手配した護衛がアレクサンドラを護衛し、国境を越えたらエイゼンシュタインの国境警備隊がアレクサンドラを護衛し王都まで送り届けるとだけ伝えた。

「アレクサンドラは、嫁ぐ前に、実家に帰されるというのですか?」
 やっとのことでアリシアが胸に詰まっていた言葉を吐き出した。
「そう言う事になるな」
 ルドルフも認めるほかなかった。
「つまり、アントニウス殿の求婚は、既に無効だったというのですか?」
「そう言う事になるな」
 ルドルフの答えに、アリシアの堪忍袋の緒が切れた。
「だから、私は反対したのです!」
 両親の白熱していく言葉の戦いを聞きながら、ジャスティーヌは胸がつぶれそうに苦しくなった。

(・・・・・・・・どうして? あの大佐からの手紙だって、アレクサンドラの事を最愛の君とアントニウス様は呼んでいたと書いてあったのに。アレクは、あんなに一生懸命に自分を奮い立たせて、アントニウス様の為になら、一生捧げる覚悟があるって、そう言ってイルデランザまで行ったのに。元気になったら、もう、アレクサンドラは用済みだってこと? もう、私たちはお終いだわ。私は、殿下と床を共にしたと噂され、アレクサンドラは白い結婚を受けたはずが、押しかけ女房で、お払い箱。娶るつもりもない求婚を真に受けた愚かな女と後ろ指をさされてしまう・・・・・・・・)

 ジャスティーヌはその場にペタリと座り込んだ。

(・・・・・・・・ああ、アレク。やっぱり、私たちは二人一緒でないとダメなんだわ。私が生きているから、殿下は誰も娶る気にならないんだから、私が死んでしまえば殿下も私を忘れてくださる。アレク、あなただって、きっと、アントニウス様に拒絶され、生きていたくないと、きっとそう思っているはず・・・・・・・・)

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