ジャスティーヌに言われたとおり、アレクシス時代に愛用していた剣を取り出すと、荷物の取り出しやすい場所にしまおうとしたが、『賊に襲われたとき』というジャスティーヌの言葉を思い出し、外出用の日傘の中に剣を隠し、スカーフで覆って隠した。
 それから、大切にしまってあったアントニウスの上着を荷物の中にしまった。
 ライラは詰められた荷物を確認しながら、夜会用の豪華なドレスを外し、普段着を大目に詰めるように指示を飛ばしていた。
 残されたドレスの大半は夜会用の豪華なものばかりだったが、アレクサンドラは豪華すぎず、それでいてみすぼらしくないものをライラに探させ、ドレスに袖を通した。馬車での長時間の移動は初めてなので、コルセットは緩め、ドレスの裾が広がりすぎると不便なので、パニエを広がらないように細めに絞るようにした。そして、髪の毛は夜の外出にはアップが普通だが、馬車を考えるとあまり高く結い上げるのは相応しくないとの判断で、軽く後ろでまとめ、背中にそのまま下ろすようにすることにした。
 アレクサンドラの支度が整うと、ライラは自分の荷物をまとめに自室に去って行った。
 アレクサンドラはアントニウスからの手紙をまとめて自分の荷物の中にしまったが、ペレス大佐からの手紙と、アントニウスからの最後の手紙は手元のハンドバッグの中にしまった。
 検閲を気にして、愛情表現があまり積極的でない手紙が多かったのに、なぜか、その最後の手紙には『あなたをこの手にもう一度抱きしめたい』と書かれていた。読み方によっては、既にアントニウスとアレクサンドラの間に既成事実があるような表現ではあったが、その一文を読んだ時、アレクサンドラ自身、もう一度アントニウスのあの逞しい腕の中で広い胸に身を預け抱きしめられたいとそう思ったから、このイルデランザ行きを強行することができたとも言えた。

(・・・・・・・・アントニウス様、すぐにお傍に参ります・・・・・・・・)

 アレクサンドラは祈る様に、心の中でアントニウスへの想いを呟いた。


 家族との別れのあいさつの後、アレクサンドラとライラ、そして、荷物を大量に積み込んだ馬車はザッカローネ公爵邸を目指し、そこで編成されたイルデランザ行きの馬車に荷物を積みかえられ、ライラは使用人達の馬車に乗せられるものと思っていたが、マリー・ルイーズとそのメイドが乗車する馬車にアレクサンドラと共に乗車が許され、一行は夜の闇を切り裂くように、早駆けでエイゼンシュタインを出発した。