初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・

 朝一番のアントニウスからの手紙に驚いたアレクサンドラはレディとは思えないような叫び声をあげて隣のジャスティーヌの部屋に駆け込んだ。
「どうしたのアレク?」
 ライラに髪の毛を纏めて貰っていたジャスティーヌは、着替えもせずに飛び込んできたアレクサンドラに目をしばたいた。
「た、大変なの!」
 アレクサンドラは言うと、アントニウスから届いた手紙をジャスティーヌに手渡した。
「まさか、アントニウス様、手紙で結婚を申し込んだ訳じゃないでしょう?」
 ジャスティーヌは言いながら手紙を受け取ると一ページ目の途中で読むのを止めた。
「知らなかったは、こんなに情熱的にアントニウス様があなたにアプローチしていたなんて」
 完璧に的外れなジャスティーヌに、アレクサンドラは一枚目を奪い取って二ページ目を読むように急かした。
「もう、アレクったら」
 不満そうに言いながら二ページ目を読み始めたジャスティーヌの表情が固まり、血の気が引き始めた。
「大変だわ!」
 突然立ち上がったジャスティーヌに、ライラが驚いて熱く熱されたコテを遠ざけた。
「お父様とお母様にお知らせしなくちゃ! ライラ、あとは適当で良いわ」
 この非常時に、それでも髪をセットして貰うのがレディと言うものなのかと、シルクの夜着にガウンを羽織って走り込んできた自分は、まだまだレディには程遠いとアレクサンドラはため息をついた。
 ジャスティーヌの指示に従い、ライラは手慣れた手つきでジャスティーヌの髪をまとめると、ジャスティーヌの為に道をあけた。
「じゃあ、ライラ、お願い」
 アレクサンドラは言うと、両親との話し合いをジャスティーヌにまかせ、ライラと共に自室に戻った。
 実際のところ、社交界にデビューした娘が二人なのに侍女が一人というのが本当は問題なのだ。
 爵家の娘たちは独りで出かけることはなく、必ず侍女を連れて外出する。ましてや、ジャスティーヌは王太子の見合い相手、その時点で新しいアレクサンドラ付きの侍女を雇うべきだったのだが、もちろん、その時はアレクサンドラは存在して居なかった。だから、アレクサンドラがレディに戻っても、二人で幼かった頃のように侍女を共有するという、王室から縁談がくる伯爵家とは思えない事を通していたのだが、あまりに当たり前すぎて誰も気にしなかった盲点を突かれたと言うべきだった。

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