「御無沙汰しております、殿下」
聞き覚えのある声に、アレクサンドラはドキリとした。
「フランツ。久しぶりだな。御父上のバルザック侯爵はお変わりないか?」
「はい。今回の舞踏会は、レディが多いので、妹たちの婿探しには適さないだろうと、次回に備えるのだといって、なかなか重い腰を上げようとしないので、母が退屈しております」
フランツの言葉に、ロベルトが苦笑した。
「侯爵は、ダンスがお嫌いだからなぁ・・・・・・」
「それなのに、母はダンス好きですから」
「それでは、夫人がお可哀想だ。今度、私の署名入りの招待状を送るようにしよう」
「母が喜びます。・・・・・・お久しぶりです、ジャスティーヌ嬢。よろしければ、妹君をご紹介していただけますか?」
怖いほどの笑顔で頼まれ、ジャスティーヌは仕方なくアントニウスに寄り添うアレクサンドラの下へとフランツを案内した。
「アレク」
ジャスティーヌがアレクサンドラを呼ぶと、フランツが怪訝な顔をしてジャスティーヌの事を見つめた。
「失礼。私は妹も、従弟も二人ともアレクと呼んでおりますの」
ジャスティーヌは笑顔で言うと、更にアレクサンドラに歩み寄った。
「アレク、こちらはバルザック侯爵家のご嫡男で、ローゼンクロイツ伯爵フランツ様よ」
アントニウスと腕を組むというよりも、アントニウスの腕にしがみついているようなアレクサンドラにジャスティーヌが言うと、フランツは正式に膝をつき片手を差し出した。
フランツの手を取りたくないアレクサンドラの腕がぎゅっとアントニウスの腕を掴んだ。
「ローゼンクロイツ伯爵、どうぞお立ち下さい。アレクサンドラ嬢は、ご存知の通り、深窓の令嬢。親しみのない男性に触れられることになれていないのです」
アントニウスの言葉に、フランツは不承不承立ち上がった。
「お初におめにかかります、ローゼンクロイツ伯爵、アーチボルト伯爵家のアレクサンドラでございます。以後、お見知りおきを・・・・・・」
アレクサンドラは震えるような声で言うと、自分の顔をじっと見つめるフランツに自分がアレクシスであることが知られるのではないかと、アントニウスの背に隠れるように身を潜めた。
「お美しい・・・・・・」
フランツの口から、アレクサンドらが考えていたのとは、まったく異なる言葉が漏れた。
「アレクサンドラ嬢は、このように人見知りなので、お許し願いたい」
まるでアレクサンドラが自分のものの様に言うアントニウスに、フランツは不満の表情を浮かべた。
「アレクサンドラ嬢は今日、正式に社交界にデビューされたはずなのに、貴殿は、どのようにお知り合いになられ、そのようにまるで兄か何かの様に振舞われるのか?」
フランツの言葉には、先日まで爵位もないのに国王の甥という立場で、人の国の社交界を荒らしていた上に、今度は深窓の姫君ともいうべきアレクサンドラの前で、まるでアレクシスがジャスティーヌの前に立ちはだかって求婚者をあしらっていたように自分をあしらおうとする態度に我慢がならないという響きが籠っていた。
それは、フランツとアレクシスが決闘に至った時と似たような状況で、ジャスティーヌが慌てて間に入ろうとしたが、スッとロベルトが前に進み出て、フランツとアントニウスの間に入った。
「フランツ、そう怒らないでくれ。君も知っている通り、私とアントニウスは従兄も同じ。私の見合いに付き添い、アレクサンドラとも親しく過ごし、今日の舞踏会のためにダンスの練習相手も務めたこともある。それに、アーチボルト伯爵夫妻からも、アレクサンドラがこのような派手やかな場所で臆したり、怯えたりすることのないようにしっかりとエスコートするように依頼されているのだ」
ロベルトの言葉に、フランツはしぶしぶ納得すると『では、今後ともお見知りおきください』と言い残して去っていった。
フランツの後、次から次へとアレクサンドラに自分を売り込もうという一団が押し寄せてきたが、中にはアレクシスの友人だったピエートルも含まれていた。しかし、アレクサンドラは挨拶をするだけで、皆一様にアントニウスに阻まれ、個人的な会話を交わすことはできなかった。
「そろそろ、もう少しダンスをしますか?」
じっとしていると、隙を狙って話をしようと様子を窺っている独身男性陣があちこちから熱い視線を送ってくるので、戸惑うアレクサンドラにアントニウスが言った。
「はい」
アレクサンドラが返事をすると、アントニウスは再びアレクサンドラとダンスフロアーへと戻った。
ふわりと膨らみ揺れるドレスとリボン、花の飾りにレース。
どう考えても、上品で凛々しいジャスティーヌと同い年には見えない可愛らしさなのに、誰もその事は気にならないようで、なんとかアレクサンドラの気を引こうと、あちこちから求愛の熱い視線が目にも見えるようにあからさまに送られていた。
聞き覚えのある声に、アレクサンドラはドキリとした。
「フランツ。久しぶりだな。御父上のバルザック侯爵はお変わりないか?」
「はい。今回の舞踏会は、レディが多いので、妹たちの婿探しには適さないだろうと、次回に備えるのだといって、なかなか重い腰を上げようとしないので、母が退屈しております」
フランツの言葉に、ロベルトが苦笑した。
「侯爵は、ダンスがお嫌いだからなぁ・・・・・・」
「それなのに、母はダンス好きですから」
「それでは、夫人がお可哀想だ。今度、私の署名入りの招待状を送るようにしよう」
「母が喜びます。・・・・・・お久しぶりです、ジャスティーヌ嬢。よろしければ、妹君をご紹介していただけますか?」
怖いほどの笑顔で頼まれ、ジャスティーヌは仕方なくアントニウスに寄り添うアレクサンドラの下へとフランツを案内した。
「アレク」
ジャスティーヌがアレクサンドラを呼ぶと、フランツが怪訝な顔をしてジャスティーヌの事を見つめた。
「失礼。私は妹も、従弟も二人ともアレクと呼んでおりますの」
ジャスティーヌは笑顔で言うと、更にアレクサンドラに歩み寄った。
「アレク、こちらはバルザック侯爵家のご嫡男で、ローゼンクロイツ伯爵フランツ様よ」
アントニウスと腕を組むというよりも、アントニウスの腕にしがみついているようなアレクサンドラにジャスティーヌが言うと、フランツは正式に膝をつき片手を差し出した。
フランツの手を取りたくないアレクサンドラの腕がぎゅっとアントニウスの腕を掴んだ。
「ローゼンクロイツ伯爵、どうぞお立ち下さい。アレクサンドラ嬢は、ご存知の通り、深窓の令嬢。親しみのない男性に触れられることになれていないのです」
アントニウスの言葉に、フランツは不承不承立ち上がった。
「お初におめにかかります、ローゼンクロイツ伯爵、アーチボルト伯爵家のアレクサンドラでございます。以後、お見知りおきを・・・・・・」
アレクサンドラは震えるような声で言うと、自分の顔をじっと見つめるフランツに自分がアレクシスであることが知られるのではないかと、アントニウスの背に隠れるように身を潜めた。
「お美しい・・・・・・」
フランツの口から、アレクサンドらが考えていたのとは、まったく異なる言葉が漏れた。
「アレクサンドラ嬢は、このように人見知りなので、お許し願いたい」
まるでアレクサンドラが自分のものの様に言うアントニウスに、フランツは不満の表情を浮かべた。
「アレクサンドラ嬢は今日、正式に社交界にデビューされたはずなのに、貴殿は、どのようにお知り合いになられ、そのようにまるで兄か何かの様に振舞われるのか?」
フランツの言葉には、先日まで爵位もないのに国王の甥という立場で、人の国の社交界を荒らしていた上に、今度は深窓の姫君ともいうべきアレクサンドラの前で、まるでアレクシスがジャスティーヌの前に立ちはだかって求婚者をあしらっていたように自分をあしらおうとする態度に我慢がならないという響きが籠っていた。
それは、フランツとアレクシスが決闘に至った時と似たような状況で、ジャスティーヌが慌てて間に入ろうとしたが、スッとロベルトが前に進み出て、フランツとアントニウスの間に入った。
「フランツ、そう怒らないでくれ。君も知っている通り、私とアントニウスは従兄も同じ。私の見合いに付き添い、アレクサンドラとも親しく過ごし、今日の舞踏会のためにダンスの練習相手も務めたこともある。それに、アーチボルト伯爵夫妻からも、アレクサンドラがこのような派手やかな場所で臆したり、怯えたりすることのないようにしっかりとエスコートするように依頼されているのだ」
ロベルトの言葉に、フランツはしぶしぶ納得すると『では、今後ともお見知りおきください』と言い残して去っていった。
フランツの後、次から次へとアレクサンドラに自分を売り込もうという一団が押し寄せてきたが、中にはアレクシスの友人だったピエートルも含まれていた。しかし、アレクサンドラは挨拶をするだけで、皆一様にアントニウスに阻まれ、個人的な会話を交わすことはできなかった。
「そろそろ、もう少しダンスをしますか?」
じっとしていると、隙を狙って話をしようと様子を窺っている独身男性陣があちこちから熱い視線を送ってくるので、戸惑うアレクサンドラにアントニウスが言った。
「はい」
アレクサンドラが返事をすると、アントニウスは再びアレクサンドラとダンスフロアーへと戻った。
ふわりと膨らみ揺れるドレスとリボン、花の飾りにレース。
どう考えても、上品で凛々しいジャスティーヌと同い年には見えない可愛らしさなのに、誰もその事は気にならないようで、なんとかアレクサンドラの気を引こうと、あちこちから求愛の熱い視線が目にも見えるようにあからさまに送られていた。



