「ジャスティーヌ、ダンスの時間だ!」
誰も踊っていない広間の真ん中にジャスティーヌの手を引いたロベルトが進んでいくと、それに合わせるように音をひそめていた楽団の奏でるメロディーが再びはっきりと聞こえるようになり、衆人の注目を浴びながら、ロベルトとジャスティーヌは堂々とダンスを踊り始めた。
窓際に一旦下がったアレクサンドラは、堂々と踊るジャスティーヌを見つめながら、心の底から美しいと感じていた。
確かに、瓜二つの二人だが、今のジャスティーヌは以前のような内気で、触れたら折れてしまいそうな儚さではなく、王太子の婚約者と呼ばれるにふさわしい気品と貫録を持ち合わせていた。
「確かに、今宵一番美しいのは、ジャスティーヌ嬢ですね」
アントニウスは納得したように言った。
「さっき、案内でファーレンハイト伯爵と・・・・・・」
アレクサンドラは疑問を投げかけた。
「イルデランザは、エイゼンシュタインのように、嫡男は父親の持っている二番目の爵位を自動的に受け継ぐわけではなく、成人しても父親が許さない限り、二番目の爵位を受け継ぐことが出来ないのです。つまり、伯爵令嬢と公爵家嫡男では、交際に差しさわりがあると、母が父に話してくれたようで、今宵の舞踏会から、ファーレンハイト伯爵を名乗ることを許されたのです」
アントニウスの言葉に、アレクサンドラはなるほどと納得した。
もし、アレクサンドラが娘ではなく、息子でアレクシスであったら、当然、嫡男なのでカンバーランド子爵を名乗っていたはずだが、実際、アーチボルト伯爵家には息子がいないので、父のルドルフがアーチボルト伯爵、カンバーランド子爵、スタットン男爵の三つの爵位を一人で背負っている。
「いま、自分が男だったら、今頃はカンバーランド子爵だったと思っていましたね?」
鋭いアントニウスの突っ込みに、アレクサンドラはドキリとした。
「先ほど私は、今宵一番美しいのはジャスティーヌ嬢で間違いないと言いましたが、今宵一番可愛らしいのは、アレクサンドラ、あなたに間違いありません」
まっすぐに見つめて言うアントニウスに、国王夫妻との挨拶で緊張して鼓動を早くしていた心臓が更に鼓動を速め、頬が恥じらいで桜色に染まっていった。
「私たちも踊りましょうか」
余りに美しく、華麗に踊るジャスティーヌとロベルトに遠慮して、なかなかダンスフロアーに人が戻らないのを見て、アントニウスは言うと、アレクサンドラの手を引いてフロアーの中央に近い位置でロベルト達の邪魔にならないよう少し距離を開けて踊り始めた。
上品で美しいジャスティーヌのドレスとは異なり、アレクサンドラのドレスはボリュームもあり、飾りも大きく花やリボンがターンの度に揺れてひらめいた。
アントニウスにリードされ、可愛く可憐にダンスを踊るアレクサンドラに独身貴族の子弟達の目が釘付けになった。
結い上げられた髪の飾りと、左右一房ずつ両耳の後ろに下ろしている髪のリボンが大粒のダイヤのイヤリングの光を際立たせていた。
我こそは、次のダンスの相手にと、居並ぶ貴族の子弟達が待ち構えているのを目の端でとらえながら、アントニウスはそっとアレクサンドラの耳元で囁いた。
「約束を覚えていますね? 今宵、あなたは私一人のもの、他の誰とも踊らないと・・・・・・」
「もちろんです。他の殿方とは、踊りたくありません」
今更ながらだが、自分がアレクシスの時は踊る相手は同姓の女性だったから気にもしていなかったが、この距離に異性に近づかれると思うと、アレクサンドラは恥じらいよりも、言葉では上手く言い表せない、一種恐怖のようなものを感じた。
「でも、何と言ってお断りしたら?」
「それは、お任せください」
アントニウスは満足そうに言うと、笑みを浮かべて見せた。
何曲か続けて踊り、やっと他のカップルがダンスフロアーに戻ってきたのをきっかけに、ジャスティーヌとロベルトがフロアーから離れていった。それに続くようにアレクサンドラとアントニウスもダンスフロアーを離れると、給仕からシャンパンのグラスを受け取り一息ついた。
その動きを目で覆っていた男性群がわらわらとアレクサンドラ達の方に移動してくるのが目に入り、ジャスティーヌは目を見張り、ロベルトは苦笑し、アントニウスは不敵な笑みを浮かべた。しかし、肝心のアレクサンドラはアントニウスの陰に隠れようとしたが、大きく広がるドレスのせいで、隠れてもどこにいるかは一目瞭然だった。
誰も踊っていない広間の真ん中にジャスティーヌの手を引いたロベルトが進んでいくと、それに合わせるように音をひそめていた楽団の奏でるメロディーが再びはっきりと聞こえるようになり、衆人の注目を浴びながら、ロベルトとジャスティーヌは堂々とダンスを踊り始めた。
窓際に一旦下がったアレクサンドラは、堂々と踊るジャスティーヌを見つめながら、心の底から美しいと感じていた。
確かに、瓜二つの二人だが、今のジャスティーヌは以前のような内気で、触れたら折れてしまいそうな儚さではなく、王太子の婚約者と呼ばれるにふさわしい気品と貫録を持ち合わせていた。
「確かに、今宵一番美しいのは、ジャスティーヌ嬢ですね」
アントニウスは納得したように言った。
「さっき、案内でファーレンハイト伯爵と・・・・・・」
アレクサンドラは疑問を投げかけた。
「イルデランザは、エイゼンシュタインのように、嫡男は父親の持っている二番目の爵位を自動的に受け継ぐわけではなく、成人しても父親が許さない限り、二番目の爵位を受け継ぐことが出来ないのです。つまり、伯爵令嬢と公爵家嫡男では、交際に差しさわりがあると、母が父に話してくれたようで、今宵の舞踏会から、ファーレンハイト伯爵を名乗ることを許されたのです」
アントニウスの言葉に、アレクサンドラはなるほどと納得した。
もし、アレクサンドラが娘ではなく、息子でアレクシスであったら、当然、嫡男なのでカンバーランド子爵を名乗っていたはずだが、実際、アーチボルト伯爵家には息子がいないので、父のルドルフがアーチボルト伯爵、カンバーランド子爵、スタットン男爵の三つの爵位を一人で背負っている。
「いま、自分が男だったら、今頃はカンバーランド子爵だったと思っていましたね?」
鋭いアントニウスの突っ込みに、アレクサンドラはドキリとした。
「先ほど私は、今宵一番美しいのはジャスティーヌ嬢で間違いないと言いましたが、今宵一番可愛らしいのは、アレクサンドラ、あなたに間違いありません」
まっすぐに見つめて言うアントニウスに、国王夫妻との挨拶で緊張して鼓動を早くしていた心臓が更に鼓動を速め、頬が恥じらいで桜色に染まっていった。
「私たちも踊りましょうか」
余りに美しく、華麗に踊るジャスティーヌとロベルトに遠慮して、なかなかダンスフロアーに人が戻らないのを見て、アントニウスは言うと、アレクサンドラの手を引いてフロアーの中央に近い位置でロベルト達の邪魔にならないよう少し距離を開けて踊り始めた。
上品で美しいジャスティーヌのドレスとは異なり、アレクサンドラのドレスはボリュームもあり、飾りも大きく花やリボンがターンの度に揺れてひらめいた。
アントニウスにリードされ、可愛く可憐にダンスを踊るアレクサンドラに独身貴族の子弟達の目が釘付けになった。
結い上げられた髪の飾りと、左右一房ずつ両耳の後ろに下ろしている髪のリボンが大粒のダイヤのイヤリングの光を際立たせていた。
我こそは、次のダンスの相手にと、居並ぶ貴族の子弟達が待ち構えているのを目の端でとらえながら、アントニウスはそっとアレクサンドラの耳元で囁いた。
「約束を覚えていますね? 今宵、あなたは私一人のもの、他の誰とも踊らないと・・・・・・」
「もちろんです。他の殿方とは、踊りたくありません」
今更ながらだが、自分がアレクシスの時は踊る相手は同姓の女性だったから気にもしていなかったが、この距離に異性に近づかれると思うと、アレクサンドラは恥じらいよりも、言葉では上手く言い表せない、一種恐怖のようなものを感じた。
「でも、何と言ってお断りしたら?」
「それは、お任せください」
アントニウスは満足そうに言うと、笑みを浮かべて見せた。
何曲か続けて踊り、やっと他のカップルがダンスフロアーに戻ってきたのをきっかけに、ジャスティーヌとロベルトがフロアーから離れていった。それに続くようにアレクサンドラとアントニウスもダンスフロアーを離れると、給仕からシャンパンのグラスを受け取り一息ついた。
その動きを目で覆っていた男性群がわらわらとアレクサンドラ達の方に移動してくるのが目に入り、ジャスティーヌは目を見張り、ロベルトは苦笑し、アントニウスは不敵な笑みを浮かべた。しかし、肝心のアレクサンドラはアントニウスの陰に隠れようとしたが、大きく広がるドレスのせいで、隠れてもどこにいるかは一目瞭然だった。



