エレアノーラ様を初めて見かけたのはいつのことだったか。王子が偲び込んだ舞踏会が邂逅だったように思う。

 壁の花を決め込む彼女に、ヴィンス様が声を掛けたのだ。とても可愛らしいステップを踏む彼女は、その頃からもう噂の的だった。



 ヴェーン家の美しき令嬢。

 悪しき貴族の娘。



 どちらが欠けてもいけない。彼女はそうだったからこそ、いつも話の中心にいた。

 あの人も美しかった。美しかったからこそ、妬みを買った。けれども一番の罪は――

「無知であったこと……」

 雨音がガラス戸を揺らす。雨、風、木々の合唱に耳を澄ましても、愛しき人の声は聞こえない。聞えてしまったなら、それはそれで背筋が凍ってしまうけれど。

 まさに深夜に似つかわしい話だ。クスリという笑声が闇に溶けた。