「へえ…。Happy endじゃないんだ」


あまりにも悲しそうに言うから、なぜだか私があわててしまう。


「でも一応二人は両思いなわけですし!」


「それでも悲しいね」


そんな別れ方、ボクだったら絶対やだなぁ。


そう言いながら、眉を下げて笑う彼。



すごく今さら、名前を聞いていないのを思い出した。


「あの、名前って…」


私の質問に、青年は軽く目を見開く。

あれ、言ってなかったっけ?と首を傾げる仕草が、何だか可愛らしかった。


「リアムだよ。リアム・ウォーカー。アメリカから1ヶ月日本に留学中。留学生別科の1年生。よろしくね」


リアム、くん。


そう呟くように言うと、彼は横に首を振る。


「リア、て読んで?」


リアくん。

そう呼ぶと彼──リアくんは、満足げに笑った。

ふわり。

それだけで、空気が優しくなる。


「キミは?名前、なんて言うの?」


リアくんの質問に、私も名乗っていなかったことを思い出した。

あわてて答える。


「竹田彩音、です。国際コミュニケーション学科1年で」


アヤネ、さん。アヤネちゃん。アヤネ。


甘い、たどたどしい発音で紡がれる私の名前。

私の名前のはずなのに、何だかいつもより可愛い名前な気がした。


「よろしくね、アヤネ」


ふわ、と優しく微笑まれる。

その彼の金色の髪に、新緑の葉が舞い落ちた。

そっと手を伸ばすと、彼の青い瞳が、驚いたように見開かれる。


「葉っぱ、ついてたよ」


同い年なんだから、と敬語をやめてそう言うと、リアくんは照れたように笑った。


「ありがとう」


景色に溶けてしまいそうな、白い肌。

淡い金色の、柔らかい髪。

キラキラと輝く、ブルーの瞳。




とく、と胸が鳴る。





──目の前に突然現れた美しい留学生は、私の心を簡単に奪っていった。