花瓶─狂気の恋─


あと少しで着くという嬉しさが余計に真帆の心を急かし、何段も飛ばして階段を勢いよく降りた。
階段を降り終え、目の前の外へ通じる廊下に差し掛かろうとした時、横の合流の廊下から人影が現れた。


「キャッ!」


短い悲鳴を出した時にはもう遅く、そのまま人影と衝突。真帆はそのまま横の方へ倒れた。肩をぶつけたのか、じわっと痛みが込み上げる。


「あっ!ご、ごめん!大丈夫かい?」


声を掛けられ、痛みで閉じていた瞼をゆっくり開いた。
目の前には手があった。その手から辿っていき、段々上の方へと視線をやるとそこには一人の男子生徒が片手に何枚もの紙を持って立っていた。

真帆は何故か世界が広がる瞬間を感じた。周りがまるで花びらが舞い上がるような、そんな感覚。
肌は白く透き通り整っている容姿、優しそうな目は真帆の心を引き込んでいるよう。頭から上履きにかけて清潔感溢れる男子生徒だった。

真帆はその男子生徒をただ見つめていた。文句を言うわけでもなく、謝る訳でもない。ただ見つめていた....というより放心状態に近い状態になっていた。

いつでも言葉を発そうとしない真帆、男子生徒は不思議な気持ちと何かあったんじゃないかと不安になる。