花瓶─狂気の恋─



真帆は足を止めたと思うと、そのまま大きく一歩踏み出して千紗の方へ走り出した。
千紗はもう戦意喪失、何も考えられない、何も出来ない状態。ただ向かってくる真帆を見つめることしか出来なかった。

真帆は千紗の目の前まで来ると、勢いにのって両手で千紗の胸を押した。

千紗はその衝撃に顔を顰め、同時に身体がうくような感覚を感じた。
それもそのはず、千紗は今空中。真帆の狂気に呑まれ、後ずさりをしている内に知らず知らずに崖のギリギリまで追い詰められていた。

真帆の姿がどんどん遠くなる。千紗は涙を空中へ零しながら、片手を真帆の方へ伸ばしながら落ちていった。

"自分は落とされた"そう自覚した瞬間、千紗は崖下の岩に激突。背中から落ちた。
岩との派手な衝撃音、生々しい気持ち悪いような音は二人だけに届き、静寂が訪れた。

千紗は背中を中心に赤い鮮血がじわぁっと広がっていく。腕や足も当たりどころが悪かったのか、折れていた。
千紗は口から血を垂らしながら、崖の上にいる真帆の方を見つめて動かなかった。


「ふっ...ブフッ!....あははははははッ!!ざまぁみろ!あははははははははッ!本当に最っ高!!死んで詫びろ!キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


暗雲で包まれた空に向かって真帆は高笑いをした。今までのどの瞬間よりもスッキリし、とても嬉しかった。