花瓶─狂気の恋─



真帆は怒りの頂点を感じた。襲いかかってくるムツに対して手に持っていた太い木の棒を、ムツの横腹目掛けて振った。
木の棒は狙い通りにクリーンヒット、ムツは地面に倒れ込んだが、すぐに立ち上がろうとする。
だが、それよりも真帆が持っていた木の棒を振り上げる方が早かった。


「あの泥棒猫の飼い犬なら!お前も同罪ッ!邪魔しないでよぉぉぉぉ!!」


真帆は振り上げた木の棒をムツに向かって振り下げた。
木の棒はムツの横腹ギリギリに刺さった。ムツは身の危険を感じ、真帆と一気に距離を取った。ガクガクと四本の足を震わせ、どことなく顔に自信がなかった。

そんなムツに対して真帆はギロっと睨み、また攻撃しようと構えた。


「どっかいけ...はやくどっか行ってよ!!本番が控えてんのよ!!」


真帆が怒号を放つと、ムツはブルブルと震えながら後ずさりをし始めた。
そこで真帆はダメ押しに持っていた木の棒をムツに向かって投げると、ムツは真帆の殺気に圧倒されたのか、リードを垂らしながら山の中へと入っていった。


「ムツ!」


千紗の叫びも虚しく、訪れたのは静寂と二人の空間だった。
真帆はさっきの過激な感情を無くし、再び千紗の方を無表情で見つめた。