真帆から溢れ出てくる異様な違和感、千紗は不気味に感じていた。
真帆が一歩づつ近付くと千紗はそれに応じて後ろへ下がっていく。それは意図的ではなく、無意識だった。
ムツは千紗の前に立ち塞がり、歯をむき出しにして威嚇していた。
「....先輩の犬って凄いですよね...早くも気がついたし、先輩を守るために怖いのに前に出てる。」
「ま、真帆ちゃん....何が言いたいの?何でここにいるの?答えて。」
真帆は千紗を睨みつけた。とても鋭く、とてつもない怨念を感じた。目で"黙れ"と訴えていた。
自分の知っている真帆とは正反対の真帆、千紗は恐怖していた。ブルブルと足は震え、手から力がなくなる。
力がなくなり、リードがスルッと千紗の手から離れた瞬間、ムツは真帆に向かって飛びかかった。
「ム、ムツ!ダメだって!!真帆ちゃん逃げて!!」
真帆は襲いかかってくるムツに対して棒立ちしていた。まるでムツを気にしていなかった。あくまで目線は千紗から離れなかった。
真帆はこの時、この場に及んで自分を心配するその優しさが、鬱陶しくてイライラしていた。
こんな時にも猫かぶるのか....許さない!そうやって先輩のことも騙していたんだ!!許さない許さない!許してやるもんか!!
アイツも....この私に向かってくるこのバカ犬も!!



