花瓶─狂気の恋─


「ハァハァ...こ、ここだよね?....ん?この音...」


耳を済ませると波の音が聞こえた。千紗はゆっくりと歩くと、自分が目にした平地が途中で切れていることに気付き、慎重にその下を見た。

千紗が立っていたのは崖、断崖絶壁で下には波がたっていた。波自体は荒くはなかった。普通の海で見るような緩やかな波。
だが、高所恐怖症の千紗にとって崖の上に立っているというだけでゾッとしていて、緩やかな波も激しく思えてしまう。


「あ...ちょ、ちょっと本当に無理なんだけど!もう!!私が高いところダメなの悠は知ってるはずなのに何でこんな所に....」



「!ワンッ!ワンッ!!グルルルルル...」


大人しい筈のムツが突然吠え始めた。崖ののこともあり、千紗は頭が上手く働いていなかったので、少し変な気分になっていた。


「ム、ムツ?どうしたの?そんな吠えて....」


ムツは千紗の真後ろの方へ吠えていた。千紗はゆっくりと後ろを振り向くと、そこには思わぬ人物が立っていた。

真帆だった。真帆は千紗の数メートル先でポツンっと立っていた。無表情で千紗を見つめている。興味もない、壊れたオモチャを見る子供のように。


「え?...真帆ちゃん?ど、どうしてこんな所に....」


千紗の問いに真帆はため息で答えた。


「はぁ...やっぱり来たんだ....有罪決っ定〜。」


「ま、真帆...ちゃん?」