花瓶─狂気の恋─


────────────────────



「ちょっと...マジで辛いんだけど....こんなキツかったっけ?ここの山...」


昼間とは思いない薄暗い山道をムツと共に千紗は登っていく。土から顔を出している土や落ちている木の枝のおかげで安定しない足元、千紗の体力が無くなるスピードも早くなっている。

それに対してムツは平気な顔をしていた。舌を出して、寧ろこの山道を登るのに楽しさを覚えているようにも見える。


「ぜぇ...ぜぇ....凄いねぇムツ..早速だから撮ろっか。」


余裕そうなムツに歩きながら一眼レフを構え、シャッターを切った。揺れる画面の中、千紗は撮れた写真を確認した。


「...もうちょっと....ハァハァ...落ち着いて撮りたかったんだけど...し、仕方がないよ...ね?
ってか...こんな所に呼び出して置いて....ジュースの一本や二本じゃ絶対済ませないもんね...もうそろそろだと思うんだけどなぁ...」


千紗は少しクシャクシャな地図を見る。目的地までは本当に後少しのはず、だけど目的地の場所がわからないが故に、通り過ぎてしまったのではないかと不安が煽る。

そんな気持ちと裏腹に、千紗はそのまま足を進めると山道を抜けることが出来、目の前には平地が見えた。
空は相変わらず暗雲で満ちていてた。