千紗の示す山とは家から少しかかる少し大きめの山、石綿山のことを指していた。
石綿山のすぐ後ろは海になっていて、観光スポットになっている場所だ。だが、そんな所よりいい場所は色々あって、石綿山が観光スポットということを知るのは極僅かな人数になっていた。
まるで閉店して廃墟と化した遊園地のよう。
「...遠いじゃん。こんな所で何をすんの?....もしかして、写真...かな?まぁまだ真帆ちゃんとの時間は大丈夫だし、往復すればそれで散歩も充分だと思うし...
しょうがないなぁ〜。行ってあげるか。」
千紗はため息を吐きながらチェーンをムツの首輪にかけた。千紗がムツの頭を撫でるとムツはとても気持ち良さそうに受け入れていた。
そんなムツを見ていると千紗は幸せな気持ちになった。
「全くお前は可愛いなぁ〜。ちょっと遠いけど頑張ってね。」
千紗はムツと一緒にこの家を出た。
これが最後の平穏、彼女にとって最後の日常。
来るべき時はいつも突然。千紗はこの日を、運命の時が来るまでにもっと家族に甘え、やりたい事をやっておけば良かったと後悔することになった。



