花瓶─狂気の恋─


千紗が頭を抱えていると、母親はそっと目の前にカレーを置いた。
真帆の事は千紗の母親も承知していた。千紗からは"とてもいい後輩で仲良くしてる"と聞かされていたので、千紗の母親としては遊んで欲しいと思っていた。


「いいんじゃない?天気予報だと台風上陸は夜なんだし、遅くなければきっと大丈夫よ。」


「そっか....うん、分かった。じゃあ行ってくるよ。まだ時間あるけど...」


「あっ、それなら真帆ちゃんの所に行く前にムツの散歩行ってあげなさい。台風来てからじゃあ散歩行けないでしょ?」


散歩というワードを聞くと、千紗はあからさまに態度を悪くした。


「ねぇお母さん。たまにはお母さんもムツの散歩行かないの?毎回私じゃん。」


「お母さんはもう歳なんだからそんな体力無いわよ。ほら、さっさと食べて散歩いかないと真帆ちゃんとの時間減っちゃうわよ?」


千紗はため息を吐きながら、カレーを口に運ぶスピードを早くした。
昨日の晩何も食べていなかったおかげなのか、お腹にカレーは余裕で入った。

千紗は綺麗に食べると、食器を台所へ持っていった。


「それじゃあ散歩行ってきます。」


「うん、気を付けてね。あっ、一応傘もって行きなさいよ。夜って天気予報で言ってたけど、もしかしたら早く降っちゃうかもしれないからね。」