予想もしていなかった名前を悠雅は呼んだ。真帆はどこから飛び出してくるか分からない泰河の突進に身構えた。
しかしいつまで経っても泰河の姿は現れない。そよ風が葉を揺さぶり、虫の鳴き声が静かに聞こえるだけで何も起きていない。
自分の周りを警戒しながら見回すが、人の気配も不自然に動く物も何も無かった。真帆は悠雅を見るが、本来の作戦ではないことは表情が物語っていた。
「た、泰河?おい泰河!神崎を取り押さえるのを手伝ってくれ!」
悠雅の声は虚しく響くだけ。山のどこからも返答の声を聞こえず、空気中へ消えていった。晶子も涙を流しながらキョロキョロとしていた。
「た、泰河君?どうしたの?どこに隠れてるの?」
真帆は未だに状況が把握出来ず警戒を怠らず、悠雅も晶子も予想外の出来事に困惑していた。妙な空気が山の中から漂っている。
「た、泰河?何かあったのか!?返事してくれ!たい」
悠雅の声が途切れた。真帆と晶子はバッと悠雅に目線を向けた。悠雅はある人物に口元をハンカチで押さえつけられていた。バタバタと足を暴れさせるが、時間と共にそれは落ち着き瞼もゆっくりと閉じた。
「え?....だ、誰?」



