花瓶─狂気の恋─


嫌な予感に引き寄せられたのか、もう一つの足音が聞こえる。その足音は桃の真後ろで止まり、何かが後頭部から耳元へ近付く。


「じゃあ...はじめよっか。矢内さん。」


その言葉に桃は心臓を打ち付けられる。分かってはいるがやはり怖い。その恐怖は今すぐ舌を噛んで自殺すれば楽になれるという結論を出した。

桃は震える口から舌を出し、一思いに噛みちぎろうとする。だが、そこで真帆が言った一言で桃の自殺は食い止められた。


「舌を噛みちぎってもすぐには死なないよ?噛んだ痛さは勿論として、それ並の痛みが数分間続く。あ、正確には噛みちぎった痛みじゃなくて、溢れ出る血を舌が無いために飲み込めなくて溺死...あれ?どうだっけ?そこら辺忘れちゃったけど少なくとも長く苦しむだろうね。

それに比べ、私は痛みを与えることはしないから安心してね〜。」


そんなの信じられるわけないじゃない!嘘に決まってる!どうせ長く苦しむようにする筈!だったら今死んだ方が....


頭の中で拒否するが、真帆の言葉が頭から離れずに噛みきれない。感じたことも無い激痛、そして溺死。息を限界まで止めるあの苦しみ以上の苦しみを味わうと思うと意思が揺らぐ。

頭ではやるなら今しかないと思ってはいるが、身体が実行させてはくれなかった。