映像に桜のシーンが出てきて、私はまたハルのことを思い出した。

たった一度呟いただけだけど、電話越しだけど、ハルもこの大学に入りたいと言っていたんだ。それも、この有名な映画サークルがあるから、という理由で。

ハルは、その夢を忘れていませんか。
私は今、ハルと再び出会える可能性を信じて、ここに座っているんだよ。

「おい、何ぼうっとしてんだよ」
「えっ、あ……ごめん」
「は? 何泣いて……」
東堂の言葉に驚き、すぐに自分の目元を触ると、指先に透明の雫がついた。薄暗い部屋の中で、私は時折映像の光に照らされて光るそれを茫然と見つめる。
どうして泣いているんだろう。もう叶わないことだと、自分の中で分かってしまっているから?

後悔は尽きない。私があの時、自分の気持ちを知られることを恐れずに、彼の能力を受け入れられたら。そしたら、今隣にはハルがいたかもしれない。

ハルは、抱きしめ合うと心が共鳴する力を持っていると言っていた。その力が私生活にどんな影響を及ぼすのか、私には到底想像がつかない。
ただ、彼は、誰かと抱きしめ合うたびに、相手の気持ちを全て受け入れるパワーが必要だっただろう。
良い時もあれば、きっと悪い時もあっただろう。
思い返すと、ハルはいつも私が辛い時に抱きしめてくれた。ハグの魔法をかけてくれた。ハルは、私の傷全てを受け入れようとして抱きしめてくれていたのに、私は逃げたんだ。

一番大切な人から、逃げだんだ、私は。

「ごめん……、どうして、はは」
誤魔化すように笑って涙を拭ったが、東堂はじっと私のことを見つめて黙っている。暗い教室なのに、東堂の鋭い視線が私に向いていることが分かる。
涙を止めようとすればするほど、目頭から涙が溢れ出てしまった。
受験も終わって、気が緩んでしまったのだろうか。それとも、大学生になったらハルに会えると、本気で期待していたせいだろうか。

打ち砕かれてしまった。向き合わなければいけない。ハルを傷つけて失ってしまった事実と。

「そんな泣くような、映像じゃないだろ」
そう言って、東堂が私にハンカチを差し出してくれた。しかし、差し出されたそのハンカチは、かなり見覚えのあるものだった。
「え、このハンカチ」
「お前のだよ。バッグからはみ出てたから取った。俺が都合よくハンカチなんか持ってるわけねぇだろ」
「え、いつの間に……」
東堂の行動に一瞬戸惑ったが、優しいんだか雑なのかよく分からない行動に、少し笑えてきてしまった。
思わずふふっと声を漏らすと、東堂はやっと前に向き直った。
東堂のお陰で涙が止まった私は、囁くように横で呟いた。
「このサークルにいるかと思って、探している人がいたんだけど、いないみたい」
「え?」
「いるわけないって思ってたのに、やっぱりどこか期待しちゃってさ。この大学の映画サークルに入るって言ってたの」
「……映画サークルなんて、ここだけじゃなく沢山あるだろ。馬鹿でかい大学なんだから」
「……え、そうなの?」
私の間抜けな発言に、東堂は呆れたように小さなため息をついた。てっきり映画サークルはこの一つだと思っていたから。
そんな私の思考を察したのか、東堂はさらに呆れたような表情で私の顔を見つめた。
「ハンカチ渡し損じゃねえか。返せ」
「いや、これ私のハンカチ……」
そんなやりとりをしているうちに、新歓PVが終わってしまった。見逃してしまったのはお前のせいだという様に、東堂に肘で小突かれて、その日のサークル案内は終わってしまった。